昭和28年07月20日 参議院 法務委員会

[006]
政府委員(法務省刑事局長) 岡原昌男
大体この蓋然性というものは、次のような点について判断することになろうかと存じます。つまり被告人の属する団体、例えば何々組という暴力団体が、而もそれが平素から非常に浅草なら浅草近辺であばれておる、而もそれ相当な地位を本人が占めており、たくさんの部下を持って普段からごろついて歩いておる。それからもっとはっきりいたします例といたしましては、さような場合に、前に事件が起きたときに同じようにお礼まわりをして歩いたことがある、或いは検察庁、又警察における調べ、或いは公判廷でもよくあり得るのでありますが、証人として調べられた者に対して、非常に捨ゼリフを申すことが例えばあいつ奴覚えているというようなことを、よく申すことがございます。そういうふうなことがございますと、いずれその本人の団体に必ずしも属しなくてもいいわけでありますが、その団体の者を動員し、或いはみずから証人なり関係人のところに行って、そうしていずれお礼まわりと申しましょうか、お蔭様で警察に入りました、いずれお礼はのちほどいたしますというふうなことを言う可能性がかなり強い。

で、更に特殊の団体としまして、朝鮮人の濁酒の密造の事件などがございます。これは御承知の、関西方面でかなりたくさん、川崎でもやりましたが、検挙いたしましたが、その際に関係人の家にどなり込みに参りまして、そうして結局、部落に住めなくするというふうな程度まで、いぢめた前例もございます。

さようなことになりますと、裁判所に証人として出て参って、真実を吐露するというふうなことは、もう望めないことになりますので、さような場合の手当として、実際問題としていろいろな警察力を動員いたしましたり、それから反対側の者を集めて、そういうことをするなというふうに、くどいて見たりしたことがあるそうでございますが、どうしてもこれが思うように行かない。毎日々々被害者の家を監視するわけにも、保護するわけにも行きませんので、結局非常に、一旦やったらもう恐がって、その証人は本当のことを言わなくなるというようなことが、たびたびございました。

そういうふうな実際の資料を裁判所に、或いは警察官或いは検察庁に、或いは裁判所が独自に手に入れられました資料に基きまして、かような判断をする、さようなことになろうかと存じます。なお統計的な実績と申しますか、さようなことについてはまだ数字でそれを現わす程度に至っておりませんけれども、この点は裁判所、検察庁或いは在野法曹におかれましても、十分顕著な事実としてお認め願っているはずでございます。



[008]
政府委員(法務省刑事局長) 岡原昌男
その警察官というあれは、恐らく2つの意味があると思います。その1つは、主に公安事件等におきまして、警察官が第一線の検挙に当りますために、おのずから証人として出る機会が多いことがございます。さような場合に警察官がしっかりしておれば、結局その事件について、別に心配ないじゃないかという意味が1つ。それからもう1つはそういう事件でなくて、一般の只今申したような事件において、警察官がその証人になるべき者、それの点において特殊の知識を持っている者の保護を敢然としてやれば大丈夫じゃないか、こういう2つの意味があるだろうと存じます。一応は御尤もでございます。ただそれを実際の事件に当てはめまして、例えば公判事件の際に警察官の家の廻りにその被告人側の連中が絶えずぐるぐる廻つて、そしてときにはビラを撒く。これは実例として、例えば東京地検の検事の横地検事の自宅の前に一夜にして数100枚と申しますか、数1000枚と申しますか、検事をやっつけろ、火焔びんを今に投げるぞというようなことをずらっとあれしましておどかしたような事件がありますが、検事に対してもそのようでございます。

これは全国的に別途資料はもう非常にたくさんございますが、昨年あたりは3、400件の脅迫事件を検事脅迫関係だけで出しております。まあそういうような脅迫をするというようなことは、そういう場合は格別といたしましてさような巡査の自宅に対して組識的な圧力を加えるというようなことが非常にたくさん行われております。かような場合にはそれ成るほど警察官なり或いはその証人たるべき人がしっかりしておれば、勿論それは問題ないはずでございます。

ただ実際問題として、さようなビラが200枚も300枚も近所の目に触れるようなところに、本人もいやがるような場所に次々と貼られるということになりますと、おのずと考え方というものがやはり、これは大変だ、どうしたらいいだろうかというようなところから、公判廷における証言ということも鈍って来る。例えば10という事実があるという場合に、7ぐらいであと言葉を濁すというふうなことになりがちでございます。

そういうようなことがないようにというのがこの趣旨でございまして、その点は警察官が幾らしっかりいたしましても、やはりこういう点の保護をしてやったほうがいいというのが一つでございますし、他面、その警察官の保護が完全に行きますればいいだろうという、これも御尤もでございますが、実際の例としては、先ほど申した通りに、例えば朝鮮人の集団密造部落における或る朝鮮人が資料を提供したためにその事件が挙がったという場合には、警察官が保護に行きようがない。もうその部落から本人が引越してどこか安全なところに出て来るか何かしなければ、四六時中見張りというものもできないという場合も実際上あるのでございます。

これは単に集団密造部落の場合のみならず、その他につきましても同じように考えるわけでございまして、例えばメーデー事件の証人というものは恐らく何人ぐらいになりましようか、1000人や2000人近くには……、参考人が延べ1万3000人になるそうでございまして、これはもう延べでございますからダブっている人もございましょうが、そういう者に対して警察官が一々見張って歩くということは不可能であろう。そういう点から、そういう面からの保護は限度がございますからして、こういう規定でこれを保護しようという趣旨でございます。